――御社の設立についてお伺いします。まずどういった経緯で設立された会社なのでしょうか?
西村 前職で一緒だった、先代の森下社長がこの業界でのビジネスを始めたいと、連絡があったことがそもそものキッカケでした。先代はすごく商売上手な人で、自分自身もっと学べるのではと思ったのが、一緒に仕事を始めた一番の理由ですね。先代と私は色々とやり方もタイプも違って、私はマーケティングや臨床研究などが得意で理屈を組み立てるタイプ、対して先代は、勘が働くいわゆる史上最強の営業マンだったので、商売が得意だったんです。当時は「勘の森下、理屈の西村」と言われ、いいコンビでした。森下社長は「自分にないものを西村は持っている。それが理由で声をかけた」と話をしていました。それが設立の経緯ですね。
――会社設立に当たり、どのような目的をお持ちだったのですか?
西村 “For the patient’s smile”、それが先代が掲げたモットーです。意味は「患者さんの笑顔のために」。アメリカの学会に参加した時に見たBeforeの写真は、顔にアザがあって、みんな表情が暗いんです。でも、アザが取れた後のAfterの写真はもう、ニコっと笑ってる。「あの笑顔のために、私たちは仕事をするんだ」ということが、For the patients’ smileの基本です。要するに、世のため人のためということです。それは私の代になっても受け継がれています。また、金儲けを考えて商売してもうまくいきません。やはり世のため人のためでないとダメなんですよ。これは医療業界だけの話ではなく、BtoC市場にしても同じで、「本当にいいもの」であることが基本です。売り方にしても、実態と違う夢のようなものを売るのではなく、正しい情報とともに身の丈程の期待感が得られ、その後のフォローというか、バックアップがきちっとしていることが大事です。サスティナブル、持続的にそういう会社になっていくためには、やはり世のため人のための遺伝子を持つことが大事です。本当に喜ばれるものを売る、そんな厳しい目で誠実にやっていくことが信用につながると思っています。ですから商売を優先するのではなくて、お客さんに喜んでもらうためにはどうしたらいいか、またそれを長く続けるにはどうするか、そういう目で物事を見て考えることがFor the patient‘s smileに繋がる、と先代から今まで受け継がれてきました。
――会社を設立された1995年ころは美容医療が盛んではなかったと思いますが、なぜ美容医療に注目したのですか? レーザー治療が美容医療になると思ったキッカケがあるのでしょうか?
西村 当時、アザやシミを取るレーザーはすでにあったのですが、ドクター・患者さんのどちらにとってもまだ一般的な治療法にはなっていませんでした。また、美容医療はダウンタイムの大きい、いわゆる「整形手術」が中心で、整形は隠れてするものという一般のイメージがありました。しかし、これから美容医療の主流になるのは、レーザーだと先代は考えていて、さらにアメリカにロックスアンダーソン先生という有名なレーザーの教授から、次は脱毛だと言われたのがキッカケですね。その時は、「え?脱毛?」と、先代も思ったみたいですが、よくよく考えてみたら、脱毛は健康な成人であれば誰でも対象になる「相手を選ばない治療」なので、これは爆発的に伸びるかも…と思ったのでしょう。脱毛レーザーの普及によって、業界やそれを使うドクター達にとってもレーザーが身近な存在になり、美容医療の在り方が変わった一つの要因でした。また患者さんの考え方や美容医療とのかかわり方をも大きく変えた、それが1997年くらいでした。
――現在、数多くの医療機器メーカーがあり、その多くが外資系企業だと感じております。その中で、御社製品が国産にこだわる理由を教えてください。
西村 うちでは10年以上前から国産レーザーの開発に注力していますが、現在も輸入製品もたくさんあります。ただ、国産の良さや重要性がここ数年で高まってきていることも事実です。 その背景に、3年くらい前にレーザーでシェアNO1、2、3の世界的企業が数カ月で次々と買収されてしまったんですね。その3社に限った話ではないんですが、買収劇の裏側では、今まで通りのサービスが続けられなくなったり、長年通い続けた担当者がやめちゃったり、消耗品の値段が急に上がったり…ということが起こるんですね。そんなことが頻繁に起こるとしたら、サービスを受ける先生方からしてみれば不安ですよね。現場を知らないどこかのファンドが買った会社が、日本の先生方のかゆいところに手が届くようなしっかりとしたサービスができるとは思えません。実際の医療現場や日本の文化、大事に思うポイントをしっかり捉え、お客さんにとって安心して長くつきあえると思っていただけることが重要であり、だからこそ、国産という安心にこだわっています。
――国内にもたくさんメーカーがあると思いますが、御社ならではの特徴やこだわりはありますか?
西村 まずは日本らしさですね。いわゆる「ジャパンブランド」の日本らしく、高い品質の製品を提供したいと考えています。例えばスペック通りにきちんとレーザーが出力されるということ。これって、海外製品を見てきたからこそわかりますが、意外と難しいんです。二つ目は、モノづくりにかける精神、考え方、つまり倫理観です。日本の電化製品もそうですが、細部までしっかり作り込まれています。例えば加湿器だったら、ゴムパッキン一つ入れるかどうかで、水が漏れるかが決まります。日本はそこを大事だと思う、そういう考え方が人の命や健康に関わる製品を生み出す精神として、とても重要なことだと思うんです。画期的で斬新なアイデアは、アメリカやイスラエルから出ていますが、日本はそれを磨き上げるのが上手ですよね。海外製品は、日本のお客様からすると「すごいんだけど、ここがちょっと…」という意見もあり、やはり国産がいいといった声もあるので、そういった日本人ならではの気づきに応えることが私たちがモノづくりにかける「世のため人のため」という精神であり、貢献できる部分でもあります。国産で細かいところにも手を抜かない、それが一番のこだわりですね。
――レーザー機器を開発されるうえで何か苦労されたことはありますか? またそれを乗り越えられたのはなぜですか?
西村 国産にこだわるからこその理由ですが、値段が少し高くなってしまったんです。材料も全部輸入しなければいけませんし、アジア圏に比べ人件費も高くなってしまいます。でもそれに負けない付加価値をつけ、安定した壊れにくい製品を作ることで、長い目で見たときに「リーズナブル」な製品を提供してきました。 また、国の医療承認という制度もハードルの一つでした。特に美容や新しい治療機器となると、医療承認が下りにくかったんですが、4~5年前から業界団体を立ち上げ、直接厚生労働省と話を始め、ここ数年で美容医療機器の承認も下りやすくなり、スピードも上がってきたのは、うちだけでなく業界全体にとっても良い流れだと感じています。ただ、海外製品だからこそのイノベーションもあるので、今後もバランスを見ながら展開していきたいと考えています。
――御社はレーザー機器メーカーというイメージが強いと思うのですが、それ以外に化粧品商材など幅広く美容医療を網羅した事業を展開されていると思います。何を目的として化粧品製造事業を始めたのですか?
西村 最初は高濃度ビタミンCの輸入化粧品から始めました。クリニックの治療に適切なホームケアを組み合わせることによって、ダウンタイムの少ない、より効果のある治療に繋げ、結果患者さんに喜ばれる、と考えたからです。また2005年頃に「先生がクリニックで100%の治療をしても、その後のスキンケアが悪いと再発・悪化するから、患者さんの協力、つまりホームケアも重要」という内容を資料にし、多くの先生から賛同をいただきました。そこで、レーザー屋だから提案できる「レーザー治療前後の肌に最も適した商品」を作っていこうと決めました。最初は海外製品からのスタートでしたが、化粧品の箱つぶれや容器の使い勝手など、細かいところが粗かったこともあり、安心して提供するためにも、今は全て国産にしています。
――化粧品を開発するにあたってこだわった部分はどういったところですか?
西村 一番は使用感です。お薬ではないので、化粧品は長く使い続けられることがとても重要です。ドクターズコスメって、効きさえすればOKというご意見もありますが、実際に使う患者さんは、テクスチャーが良い、嫌な匂いがしない、容器が可愛い、という好みや感性で選んでしまう傾向があるんです。例えば洗顔一つにしても洗い上がりってとても重要ですよね。その当時、そこに気をつけている会社はあまりいなかったんです。 もちろん、医療機関で販売するものだからこそ、先生が勧められるレベルの効果効能、そして肌に優しいことも重要です。ですが、それに加え、一般の化粧品と肩を並べられるくらいの品質だったり、見た目だったりというところにも配慮し続けてきました。 あと最近では「わかりやすさ」も重視しています。化粧品を患者さんに説明することが多いスタッフの方や先生が、短時間で患者さんに説明できるよう、極力シンプルに説明できるために、要点を凝縮しポイントを一行にまとめるといった工夫もしています。
――実際に取り扱われている医療機関からの評判はいかがでしょうか? また販売している化粧品の中で、一番評価が高い、人気がある商材はなんですか?
西村 最近とても人気の商品が、「泡洗顔」なのですが、これ実はもう8年くらい販売しています。売れ出したのは、打ち出し方を変えた2年前からです。それまでは、「メイクも落とせる洗顔料」だけを打ち出していたのですが、もともとの開発コンセプトであった「摩擦ゼロを目指したこすらない洗顔」という要素を付け足しました。そうしたところ、多くの先生がこのコンセプトに賛同してくださったんです。例えば「肌をこする」のが厳禁である肝斑の方など、この製品を勧める患者様がイメージできる状態にしたことで、急激に人気が出ました。これはやはりレーザーを扱っている会社だからこそ気づけた部分で、大手化粧品メーカーとは違ったところだとも思っています。当社はより現場レベルの細かいところに気づいて、良い製品を患者さんに勧めやすい形にしていくことをこれからも続けたいと考えています。
――今まで長年美容医療の業界に携わってきて、医療機関との信頼も築けている御社ですが、最後に今後の展望をお聞かせいただけますか?
西村 今まで急成長を遂げてきた美容医療がこれからもガンガン伸びるかというと、そんなことはないと思っています。20年間も伸び続けてきたのですから、少しペースが遅くなるのは当然です。美容医療がもっと伸びるためには、この業界だけではなくて、日本全体が元気になっていかないといけません。それには新しい技術の開発が重要だと思っています。今までできなかったこと、治らなかったことが治るようになるなど、何かしらのイノベーションがあれば、またグンと上がるかもしれないですよね。本当の意味で社会から必要とされ、それに対して自信をもってお勧めできるものを作っていくことが大切だと思っています。また昨今のコロナ禍もあり、生活習慣やビジネスのやり方、あり方が変わっていきますから、いち早く適応していくことが重要だと考えています。
株式会社ジェイメック
代表取締役社長
西村 浩之(にしむら ひろゆき)
株式会社ジェイメック
TEL: 03-5688-1803