公益社団法人日本美容医療協会は、美容医療系の団体としては唯一、内閣府より公益社団法人の認定を受けています。医師向けに医師賠償保険の斡旋をしたり、患者様向けに美容医療公開オンライン相談室を設置したりするなど、さまざまな活動を行っています。
今回は、理事長の青木律先生に協会設立の経緯や具体的な活動内容について、お話を伺いました。
美容医療の普及と国民の皆様への啓発を目的に設立
―― 日本美容医療協会を設立された目的と経緯を教えてください。
青木 日本美容医療協会は我が国の健全で安心な美容医療の普及と国民の皆様への啓発を目的に、美容医療の担い手である開業医と最先端の医療の研究者である大学病院形成外科に属する医師らが一致団結して結成されました。そしてその設立に関しては、厚生省(当時)の指導と日本医師会の多大な支援がありました。
発足から20年を経た平成23年にその功績が評価され、美容医療系の団体としては唯一、内閣府より公益社団法人に認定を受けております。
―― 具体的な活動内容について教えてください。
青木 当協会は安心・安全な美容医療を提供する観点から、美容外科系の学会とは一線を画し、学問的なことは各学会で、それ以外のことはすべて協会が担当しております。
協会の業務には、大きく医師向けのものと患者様向けのものがあります。
医師向けのものとしては、医師賠償保険の斡旋があります。現在、一般社団法人日本美容医療共済会が業務を行っておりますが、この共済会は美容医療にかかわる事業者同士が協力して、当事者間で美容外科のための賠償責任保障を提供するために当協会が設立しました。共済会では通常の保険では保障されない「美容を唯一の目的とする医療行為」による医療過誤賠償責任保障や麻酔事故の保障、更には病院スタッフや院内設備により損害を与えてしまった場合の施設賠償責任保障などを取り扱っており、当協会会員のみが入会することができます。当協会では会員医師に対して講習会や勉強会などを行うことにより、安全な美容医療教育を行っているため、共済会の運営は非常に順調であると聞いております。
また協会では、安全な医療と広告規制も遵守している医療機関に対して、適正認定施設症(通称マル適)を交付しております。また、美容医療レーザー講習会を定期的に開催し、受講者には美容レーザー適正認定医資格を付与しております。この他にも、医療法等関連法規の改正があった場合には、その都度、勉強会を開催して会員に改正の要点、遵守すべき点などの講習を行っております。
患者様向けには美容医療公開オンライン相談室を設置して、美容医療に関心、疑問がある方向けにオンラインで協会マル適医師が質問に回答しております。
協会を設立した当初は、今のようにインターネットで簡単に情報を得ることができなかったので、電話相談室というものを行っていました。これは昨年まで行っていたのですが、今はオンライン相談室のみとなっています。
―― 「オンライン相談室」には、患者様からどのような悩みやご相談がありますか?
青木 カテゴリーが、フェイスリフト、目・まぶた、鼻、口・唇など18項目ありますが、目・まぶただけでも月に100件ぐらいのご相談があります。オンラインということもあり、海外からも相談が来ることもあります。
開設当初は、自分の悩みを解決するにはどのような方法があるのか、というような美容医療の内容に関する質問がほとんどでしたが、現在ではインターネット上で様々な情報が入手できることから、そのような質問は少なくなったように思います。近年の傾向としては、治療の結果が思わしくなかったとか、医師の説明が実際とは異なるようだ、という質問が多いように感じます。
―― 毎年開催されている「市民美容医療公開講座」のテーマや講座内容はどのように決めているのでしょうか?
青木 市民美容医療公開講座は、日本美容外科学会(JSAPS)開催時に学会長と共催で開講して、最新の美容医療情報や安心安全な美容医療医の選び方などをお伝えしております。
JSAPSの学会は年に3回開催されますが、場合によっては年2回開催のこともあります。特に、美容医療機関が少ない地方開催の時には、なるべく開催していただけるように支援しております。
通常は2名の講師が登壇し、うち1名は美容医療協会役員が講師を担当することになっております。直近でいえば、2019年10月に浦安で当協会前理事長の保阪先生が美容医療の現状と活用術について広い範囲をとても分かりやすく解説してくださいました。また同年6月には、福岡市で「美と健康」というテーマで矢永会長と私で美容にまつわる正しいことと正しくないことについてお話しました。テーマは主催者である会長がお得意なものを決められるようですが、その中にも最新のトピックスを入れ、患者様のためになるお話をするよう心がけております。
新型コロナウイルスに対応しながら、安全な形で診療を元通りにしたい
―― 新型コロナウイルスで、美容医療の現場ではどのような影響があったでしょうか?
青木 協会では感染拡大がみられ始めた4月3日に、ホームページと会員向けの文書で診療自粛のガイドラインを公表しました。それと同時に国際美容外科学会の提言も併せて掲載し、会員と国民の双方に注意喚起を促しました。幸い美容医療関連のクラスターの発生は現時点まで認められておりません。
―― 医療現場からはどのような声がありましたか?
青木 診療自粛は経営の観点から死活問題であり、多くの反対意見が出るものと思いましたが、幸いにして会員諸先生方にはご理解をいただいたようで特に厳しいご意見は伺っておりません。我々は医療者ですので、経営を優先してウイルスを蔓延させることは避けなければなりません。しかし、患者様のご希望もありますし、安全な形で診療を元通りにしたいという意向はあります。
―― 新型コロナウイルスでテレワークが進み、美容外科の受診者が増えたとの一部報道もありましたが、実際のところはどうなのでしょうか?
青木 2月の終わりから3月にかけて、美容医療患者が増加傾向にあったことは否めないと思います。しかし、4月3日に協会が診療自粛の提言を行い、さらに一週間後に日本美容外科学会が同様の提言を行ったこと、そして政府の緊急事態宣言が発せられてからは、どの施設でも美容の患者様は殆ど来院されなくなったと聞いております。
当協会にも一部報道機関から取材がありましたが、4月上旬の取材の内容を、自粛がいきわたった中旬や5月になって報道されたこともあり、実態が誤って伝わっているように思います。
―― 協会としてどのような対策をされたでしょうか?
青木 上述のように診療自粛の提言を行いました。また緊急事態宣言が解除され、現在では経済活動の再開が課題となっております。
それに対しましても6月10日に海外で発表されたコンセンサスガイドラインを公開し、また6月14日現在、日本環境感染症学会のご指導の下、わが国独自のガイドラインを作成しており近日中に公開予定です。
―― 美容医療というワードは今でこそ当たり前のように認知されていますが、ここまで認知上げるために苦労されたことはありますか?
青木 これは協会が単独で努力をしたということではなく、諸先輩方が長年、診療実績を積み重ねてこられた結果であると思います。いくら協会がプロパガンダをしても、実績が伴わなければここまで美容医療の隆盛はなかったと思います。
それと同じ意味で、ごく一部の心ない美容医療医の行為が全体の威信を傷つけてしまうことがあります。一度失った信頼は簡単には取り戻せません。
ですから私たちは日ごろから美容医療に携わる医師は必ず協会に入って、正しい美容医療情報を得ていただきたいと考えております。
美容医療は元気であり続けたいと願うすべての人のためのもの
―― 美容医療の将来性についてどのようにお考えですか?
青木 今回のコロナウイルスの感染拡大で露呈したのは、我々の社会が実に多くの人と繋がりをもって活動していたということです。自宅勤務になったことで精神的に不安定になる「コロナ鬱」や米国での人種差別に対する暴動などは、人間が人と人との繋がりを失ったことによって精神的に極めて不安定になることの証ではないでしょうか? 人と人との繋がりがいかに大切であったのかは、それを失ってみて初めて分かったように思います。
美容医療というのは、単に自己満足や虚栄のためにあるのではありません。我々の心の底に潜む外見的な劣等感を払拭し、より積極的な人生を歩むためのものです。人と人との繋がりをより強固にするためのものです。
今後、人生100年時代に突入すれば、今よりももっと元気な80代、90代の方が増えてくるものと思われます。年寄りは家に引きこもるのではなく、どんどん社会に出て活躍することを考えると美容医療の必要性は高まるでしょう。
美容医療というのは特別な人だけのものではなく、いつまでも元気であり続けたいと願うすべての人のためのものです。その意味からは今後ますます発展していくものと考えております。
―― 今後の展開、目標について教えてください。
青木 現在、日本の美容医療は大きく分けて4つのグループに分けられています。まず美容外科医はJSAPSとJSASという二つの団体に分裂しており、なかなか統合の兆しが見えません。また、美容皮膚科という領域が今後ますます拡大していくでしょう。そして美容外科医、美容皮膚科医以外の婦人科や内科でもアンチエイジングやウェルビーイングという分野が進展してくると思われます。協会としては美容に関する医療を行っている医師は須らく当協会に加入していただきたいと考えております。
その意味は、まず厚生労働省と連絡を密に取ることによって、最新の情報がすぐに各医師に伝達できるようになります。新しい治療法が出現した場合、それが安全なのかそうでないのか、現在ではこれを統合的に把握している団体がありません。それを行うのは公益社団法人である当協会であろうと考えます。
また反対に、現場の意見を当局に伝達することも可能になろうかと思います。特定商取引法の改正に際しては、美容医療協会として意見を具申しましたが、残念ながら我々の意見は取り入れられませんでした。現場の意見をなるべく広く集約できるようにする機関として協会は役に立てるのではないかと考えます。
また、現場と政策担当者だけにとどまらず、美容医療機器産業ともなるべく意見を共有し、我々が求めている器械を開発してもらったり、産学共同の橋渡しをしたりすることなどもできないかと思います。そして夢はそこで開発された治療法が世界標準となり、日本だけでなく世界中の人の幸福につながればよいと思います。
公益社団法人日本美容医療協会
理事長 青木 律(あおき りつ)
グリーンウッドスキンクリニック立川院長
経歴
昭和63年 日本医科大学卒業
医師国家試験合格、日本医科大学付属病院研修医
日本医科大学皮膚科学教室入局(形成外科専攻)
平成2年 日本医科大学付属第二病院外科、消化器病センター医員
平成3年 福島県会津総合病院形成外科医員
平成4年 日本医科大学付属病院形成外科医員助手
平成2年 日本医科大学付属第二病院外科、消化器病センター医員
平成6年 山形県北村山公立病院形成外科医長皮膚科兼担
平成8年 オーストラリアシドニー 王立プリンスアルフレッド病院
形成再建手の外科 シニアレジストラ
平成9年 オーストラリアメルボルン 王立小児病院
小児形成外科 ビジティングフェロー
平成10年 日本医科大学形成外科学教室講師
平成15年 日本医科大学付属病院形成外科・美容外科講師
平成19年 日本医科大学付属病院形成外科・美容外科助教授
平成20年 日本医科大学付属病院形成外科・美容外科准教授
早稲田大学・非常勤講師
グリーンウッドスキンクリニック立川開設
医学博士、日本形成外科学会認定 形成外科専門医、日本美容外科学会理事、日本美容医療協会理事長、公益社団法人顔と心と体研究会理事、日本美容医療共済会理事、日本美容医療リスクマネジメント協会理事、他多数学会会員
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