パンテノール 美容や健康への効果や上手な取り入れ方を解説
プロビタミンB5とも言われるパンテノール。美容と健康に様々な効果が期待できることから、塗り薬や目薬などの医薬品のほか、スキンケア・ヘアケア製品などにも幅広く使用されています。
この記事では、万能な効果をもつパンテノールについて詳しく解説します。
今回、パンテノールについて教えてくれたのは
薬剤師 藤原 智沙恵 さん
研修認定薬剤師、1児の母。
メーカーで化粧品・医薬部外品の研究開発職に従事し、スキンケア製品や衛生用品の開発に携わる。
薬事申請や2度の特許出願なども経験した後に、調剤薬局の薬剤師へと転職。
薬局で様々な皮膚疾患をもつ患者さんの服薬指導にあたり、さらに多くの人に正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、医療・美容分野を中心に執筆活動を始める。
薬剤師やメーカー勤務時代に取得した化粧品成分上級スペシャリストの資格を活かし、化粧品成分の安全性や美容サプリメントの正しい服用方法などを伝える記事の執筆・監修に積極的に取り組んでいる。
パンテノールとは
パンテノールは、水溶性ビタミンであるビタミンB群の一種です。
体内に吸収されると必須ビタミンとされるビタミンB5(パントテン酸)になることから、またの名を「プロビタミンB5」と呼ばれます。
パンテノールはパントテン酸のアルコール誘導体であり、パントテン酸よりも安定性に優れています。さらにパントテン酸の生理作用に加えて保湿作用もあるため、多くのスキンケアやヘアケア製品に配合されています。
パンテノールの働き
パンテノールは体内に吸収された後、容易に酸化されてパントテン酸に変換されます。そして体内でコエンザイムA(CoA)という補酵素の構成成分となり、エネルギー代謝の過程で働く酵素の働きを助けています。
すなわち、3大栄養素である炭水化物・脂質・タンパク質からATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー物質を酵素が作り出すのを助けることで、パントテン酸は細胞の増殖やコラーゲンの合成、筋肉の運動などをサポートします。
その他にも、イライラを抑えてストレスを緩和する副腎皮質ステロイドホルモンの合成や、神経伝達物質であるアセチルコリンの合成にも関わっており、私たちのからだの生理機能の維持に欠かせない必須栄養素なのです。
期待できる効果
肌への効果
・創傷治癒効果
パンテノールは肌のターンオーバーを活性化させたり線維芽細胞の増殖を促進したりすることで、傷の治りを早くする効果があることが分かっています。その高い効果と安全性から、母乳育児中の乳首の外傷や痛みを治療するための乳首クリームにもよく配合されています。
・乾燥を改善する効果
パンテノールは肌に浸透しやすく、高い保湿効果を持つことから、肌にツヤとうるおいを与えて、肌のキメを整えてくれます。また、パンテノールはパントテン酸に代謝された後、ビタミンCと共に肌のコラーゲンの生成を助けて保湿効果をさらに増強したり、肌の小じわやハリを改善したりする効果もあります。
・ニキビやかゆみを改善する効果
パンテノールはパントテン酸に変換された後、白血球細胞に働きかけて抗炎症作用を持つことが知られています。そのため、肌のかゆみや赤み、ニキビの症状を軽減する効果も期待できます。その他、ホルモンバランスの乱れからできるニキビの一因としてパントテン酸が関連することが分かっており、大人ニキビの予防にも役立つと考えられています。
・肌のバリア機能を高める効果
パンテノールは、脂質の合成と表皮の分化を促進することで、皮膚のバリア機能の修復を促すことができます。バリア機能の強化と抗炎症作用をもつことから、パンテノールは紫外線からの皮膚保護作用も報告されています。
髪への効果
・育毛効果
パンテノールは毛母細胞を活性化させることで、毛髪の成長を促して抜け毛や薄毛などに効果を発揮すると言われています。また頭皮も肌の一部であるため、パンテノールによって肌のターンオーバーが活性化されることで頭皮環境が良くなり、丈夫な毛髪を育てることができます。そのため、パンテノールは育毛剤によく配合されています。
・髪にうるおいとツヤを与える効果
パンテノールは高い保湿効果を持つため、毛髪をうるおしてツヤを与える作用があります。また頭皮を保湿して抜け毛を防ぐ効果もあるため、シャンプー・コンディショナー・トリートメントなど多くのヘアケア製品に配合されています。
・頭皮のかゆみを抑える効果
パンテノールの抗炎症作用により、頭皮トラブルやかゆみを抑える作用があります。特に乾燥によるかゆみには高い効果が期待できます。
健康への効果
・目への効果
パンテノールは疲れ目やドライアイを改善する目薬の成分としても使用されています。
パンテノールは、ムチンという涙を安定化する粘液を増加させることにより、角膜を保湿してドライアイを改善する効果があります。
さらにパンテノールは、エネルギー物質であるATPの産生を増加させる他、神経伝達物質であるアセチルコリンの原料となることから、目のピント調節を行う毛様体筋を動かしやすくして疲れ目を改善する効果があると言われています。
・腸管への効果
実はパンテノールは医療現場でも用いられています。開腹手術後に腸管の運動が弱くなったり止まってしまったりする場合があるのですが、パンテノール注を投与することで腸管麻痺の状態が改善されることが分かっています。パンテノールは神経伝達物質であるアセチルコリンの生成を促すことで副交感神経を刺激し、腸管の蠕動運動を活性化させると言われています。
・肥満体質への効果
パントテン酸は脂質の代謝に関わっているため、パントテン酸やパントテン酸誘導体を補給することで、過剰な脂質の代謝を促進しメタボリックシンドロームの改善に効果があるという報告があります。また、HDL(善玉)コレステロールを増やすことで、動脈硬化や心疾患を予防する効果も期待できると言われています。
上手な取り入れ方
食事から摂取したいとき
パンテノールは今のところ食品での使用が認められていないことから、食事から摂取することはできません。一方で、パントテン酸は食品中に広く存在するため、空腹を満たす量の食事摂取をすれば十分な量のパントテン酸を摂取することができると言われています。
特に肉類・キノコ類・魚類・乳製品などに多く含まれますが、注意するポイントは、パントテン酸は水に溶けやすく熱に弱いため、シンプルな調理法を選択するのが理想です。茹でるよりも蒸したり炒めたりする方が、パントテン酸の損失が少なく摂取できるでしょう。
また、コーヒーやアルコールを多く摂取する人は、パントテン酸の吸収が阻害されやすくなってしまうため、意識して摂取するようにしましょう。
化粧品から摂取したいとき
パンテノールはパントテン酸よりも配合安定性が高く、保湿効果も高いことから多くの化粧品に配合されています。
一般的な化粧品での表示名称は「パンテノール」「プロビタミンB5」となっていますが、医薬部外品(薬用化粧品)では「パントテニルアルコール」と記載されているため、表示成分を確認する際は注意しましょう。
ちなみにパンテノールが化粧品や医薬部外品に配合される場合には厚生労働省により配合量の上限が定められています。
●化粧品に配合される場合
・粘膜に使用されることがない化粧品のうち、洗い流すもの:無制限
・粘膜に使用されることがない化粧品のうち、洗い流さないもの:100g中3.0gまで
・粘膜に使用されることがある化粧品に100g中0.30gまで
●医薬部外品に配合される場合
医薬部外品の有効成分として使用される場合は、化粧⽔・乳液・クリーム・パックには0.1〜0.3%(洗い流しのパックは0.1%)、その他育毛剤や入浴剤には1.0%が配合上限になります。
医薬品から摂取したいとき
パンテノールは、以下のような市販薬に多く配合されています。
・ひびやあかぎれなどの傷の組織修復を目的とした塗り薬
・乾燥によるかゆみを抑える目的の塗り薬
・目の疲れや目のかすみの改善を目的とした目薬
・栄養補給や肉体疲労の回復を目的としたドリンク剤
また、医師の処方箋が必要な医療用医薬品にもパンテノールの注射・点滴剤があり、以下の効果効能に適応があります。
・パントテン酸欠乏症の予防及び治療
・パントテン酸の必要量が増えているにも関わらず、食事からの摂取が不十分な場合(妊婦・授乳婦・甲状腺機能亢進症など)
・パントテン酸の代謝障害(抗菌薬のストレプトマイシン及びカナマイシンによる副作用の予防及び治療、接触皮膚炎、湿疹、術後腸管麻痺など)
副作用や注意点は?
副作用
パンテノールは水溶性であるため、過剰に摂取しても尿と一緒に排出されます。
そのため副作用や過剰摂取による健康被害の報告は今のところありません。特に化粧品では上限量の設定もされているため、そのリスクはさらに低くなっています。気になる方は、念のためパッチテストなどで確認してから使用すると良いでしょう。
欠乏症
パントテン酸の語源は、ギリシャ語の「いたるところに存在する」から付けられたように、パントテン酸があらゆる食品に含まれているため、基本的には欠乏する心配はほとんどありません。近年の日本人の「国民健康・栄養調査(令和元年)」においても、目安量(成人で1日5〜6㎎)は摂取できているとの報告があります。しかし、パントテン酸は極度のストレスや疲労などの防御反応時に消費されるため、現代社会においては注意が必要です。
欠乏した場合は、皮膚炎や脱毛、めまい、疲労感、頭痛、食欲不振、手足の知覚異常、不眠症などが起こることがあります。
妊娠・授乳中に使用した際の安全性
パンテノールは、妊婦・授乳婦への安全性が認められており、妊娠・授乳中に使用しても問題ありません。妊婦・授乳婦は通常よりもパントテン酸の消費量が多いため、不足しないように注意しましょう。
併用に注意すべき成分についての情報
パンテノール・パントテン酸共に併用してはいけない成分の報告はありません。万能な効果をもつパンテノール・パントテン酸は、他の多くの保湿成分や抗炎症成分、疲労回復成分などと一緒に様々な製品に配合されています。近年では、パンテノールと同じく損傷治癒・抗炎症効果のあるシカ成分と組み合わせたパンテノールシカクリームなどが話題です。
パンテノールを積極的に取り入れ、健康的に美しく!
万能な効果が期待できるパンテノールは美容や健康の分野で注目されている成分です。
水溶性ビタミンの誘導体であり、副作用や過剰症の心配もないことから、妊娠・授乳中でも安心して取り入れることができます。
強いストレスや疲労を感じたとき、コーヒーやアルコールを多量に摂取したときなどは体内のパントテン酸が不足しがちになるため、積極的にパンテノールを取り入れるようにすると良いでしょう。