美容医療のかかりつけ わたしの名医

リノール酸S リノール酸との違いや美白効果について徹底解説

美白有効成分としても近年注目されている「リノール酸S」
メラニン生成にかかわるチロシナーゼ酵素の活性を抑制し、過剰なメラニン生成を防ぐ効果があると言われています。

今回は、必須脂肪酸のリノール酸との違いや、気になる美白効果について解説します。

今回、リノール酸Sについて教えてくれたのは

薬剤師 藤原 智沙恵 さん

研修認定薬剤師、1児の母。
メーカーで化粧品・医薬部外品の研究開発職に従事し、スキンケア製品や衛生用品の開発に携わる。
薬事申請や2度の特許出願なども経験した後に、調剤薬局の薬剤師へと転職。
薬局で様々な皮膚疾患をもつ患者さんの服薬指導にあたり、さらに多くの人に正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、医療・美容分野を中心に執筆活動を始める。
薬剤師やメーカー勤務時代に取得した化粧品成分上級スペシャリストの資格を活かし、化粧品成分の安全性や美容サプリメントの正しい服用方法などを伝える記事の執筆・監修に積極的に取り組んでいる。

リノール酸Sとは

リノール酸Sは、歯磨き粉などでも有名なサンスター株式会社が18年の研究の末に開発した美白成分です。その確かな美白効果から、医薬部外品の有効成分として2001年に厚生労働省から認可を受けています。保湿成分のリノール酸と区別しやすいように、サンスターでは独自に「リノレックS」という愛称を使用しています。

リノール酸って何?

リノール酸は、オリーブオイル、コーン油、大豆油といった植物油のほか、豆や穀類などにも含まれる脂肪酸です。体内で合成することができず食物から摂取しなければならないため、必須脂肪酸の一つに数えられています。

リノール酸は適量を摂取することで、動脈硬化や高血圧、成人病の予防と改善に効果があると言われています。さらに、悪玉コレステロールや中性脂肪を減らす作用もあるため、減量やダイエットにも効果的です。
肌に塗布した場合は、高い保湿効果が期待できます。リノール酸は肌の細胞間脂質の約50%を占めるセラミドの構成成分であり、肌のバリア機能を維持して水分が蒸発するのを防ぐ働きがあります。リノール酸は肌なじみが良く、脂溶性であるため肌への浸透性も高い成分です。

遊離リノール酸から生まれた「リノール酸S」

「リノール酸S」が生まれたのは、味噌(みそ)などに豊富に含まれる遊離リノール酸に美白作用があることが分かったのが始まりです。
大豆に含まれるリノール酸は、発酵・熟成させて味噌(みそ)を作る過程でグリセリンが切り離されて、遊離リノール酸になります。この遊離リノール酸に、メラニン色素を合成するチロシナーゼを分解する働きがあり、皮膚細胞を障害することなく安全に美白効果を発揮することが研究で明らかになりました。一方で遊離リノール酸は、その高い浸透性からメラニンを生成するメラノサイト(表皮の一番下層にあるメラニンを作る工場)にとどまることができず、効率的に作用しないという欠点がありました。
そこでサンスター株式会社によって、ベニバナ油からリノール酸を精製し、局所的にメラノサイトで効果を発揮するよう安定性や浸透性を調整して開発されたのが「リノール酸S」なのです。

美白メカニズム

リノール酸Sは、美白有効成分であるため、日焼けによるシミ・そばかすを防ぐ効果が期待できます。ここではリノール酸Sの美白メカニズムについて詳しく解説します。

美白有効成分は全部で20種類のみ

シミの予防に効果的な成分は数多くありますが、効果があると厚生労働省から正式に認められた成分は20種類しかありません。
シミができるプロセスについて、大きく5つに分けてご説明します。

~シミができるプロセス~
①メラニンの生成指令(情報伝達物質の発生)
紫外線やストレスなどの刺激により肌は「メラニンを作れ」という指令を出します。指令を伝える際にはプロスタグランジン、プラスミン、エンドセリンといった情報伝達物質が発生します。

②メラニンの合成
「メラニンを作れ」という指令が出ると、アミノ酸の一種であるチロシンにチロシナーゼという酵素が結合し、シミのもとなるメラニンの合成を始めます。

③メラニン色素の黒色化(酸化)
チロシンからメラニンが生成する過程で酸化反応を繰り返し、メラニンが黒色化します。

④メラニンの運搬
メラニンを作る工場であるメラノサイトから、メラニンを包んだメラノソームが放出され他の細胞へと受け渡されていくことで、表皮の下層から肌表面へとメラニンがどんどん上がっていきます。

⑤メラニンの過剰な蓄積
作られたメラニンがターンオーバーによって排出されずに肌の表面付近に滞留することで色素が沈着しシミになります。

そして美白成分はこの5つのプロセスのいずれか、または、複数箇所をブロックすることでシミの生成を予防します。 例えば、大まかに以下のような分類ができます。

①メラニンの生成指令の抑制
例)トラネキサム酸・TXC(トラネキサム酸セチル塩酸塩)・カモミラET

②チロシナーゼ阻害作用
例)アルブチン・プラセンタエキス・コウジ酸・ルシノール・4MSK・エラグ酸・マグノリグナンなど

③メラニン色素の還元作用
例)アスコルビン酸・ビタミンC誘導体(5種類)

④メラニンの運搬阻害作用
例)ナイアシンアミド

⑤メラニンの排出促進作用
例)AMP・PCE-DP(デクスパンテノールW)など

チロシナーゼを「分解」してシミの生成を防ぐ効果

シミのもとであるメラニンは、チロシンにチロシナーゼという酵素が結合することで合成が開始されます。上記のように、美白有効成分でチロシナーゼの活性を阻害するプロセスで効果を発揮する成分はとても多いです。
その中でもリノール酸Sは、チロシナーゼの働きを単に阻害するのではなく、チロシナーゼ自体を「分解」してしまうのが大きな特徴です。 リノール酸Sはチロシナーゼにユビキチン(タンパク質分解のための目印)を付加することで、タンパク質分解酵素がチロシナーゼのタンパク質を分解するのを促します。
他のチロシナーゼ阻害剤と比較して、チロシナーゼ自体の量を減らすことができるため、高い美白効果が期待できます。

ターンオーバーを活性化して、シミのもとを排出する効果

通常、メラニンはターンオーバーと共に肌の外へと排出されますが、新陳代謝が滞ると肌の中にメラニンが残ってしまい、シミやくすみを引き起こします
リノール酸Sは肌のターンオーバーを活性化させて、シミやくすみのもとであるメラニンを排出する作用があります。
できてしまったシミが化粧品でのスキンケアで完全に消えることはありません。ただし、ターンオーバーを正常に戻すことで今あるシミを薄くしたり、増やさないようにしたりすることは可能です。
ケアを始めると一時的にシミが濃くなったように感じる場合がありますが、これはターンオーバーによってシミが表面に押し出された結果です。継続することで徐々に改善すると考えられます

リノール酸S製剤の工夫

リノール酸Sを開発したサンスター株式会社は、より効率的にリノール酸Sを肌内部へ届けるための製剤化技術を開発しており特許も取得しています。

安定性改善

リノール酸Sは多価不飽和脂肪酸です。多価不飽和脂肪酸とは構造式の炭素同士に複数の二重結合を含む脂肪酸のことで、空気中の酸素や光、熱などにより酸化・分解されやすい性質があります。
そのまま化粧品に配合すると経時的に含有量が低下してしまったり、変色や異臭の原因になったりすることもあります。
そこで、リノール酸Sを多層のリン脂質膜で構成されたナノサイズのカプセル(ナノトランスファーカプセル)で包み込むことで、リノール酸Sの酸化や分解反応を起こりにくくし、製剤中での安定性を向上させています。

浸透性と滞留性改善

リノール酸Sの美白効果をきちんと発揮させるためには、シミを生成するメラノサイトへと効率よくリノール酸Sを届ける必要があります。

サンスターはカチオン化植物タンパク質をナノカプセルに封入し、表面がプラス(+)に帯電したナノカプセル(プラスチャージナノカプセル)を開発しています。肌のメラノサイトはマイナス(-)に帯電しているため、リノール酸Sをプラスチャージナノカプセルで包み込むことで+と-同士が引き合い、リノール酸Sが効率よくメラノサイトに引き寄せられて定着します。リノール酸Sの浸透性と滞留性の向上が認められたことから、サンスター株式会社は2017年にプラスチャージナノカプセルの製剤特許を取得しています。

(参考)特許6169240リノール酸含有組成物

リノール酸関連の臨床研究

肝斑への効果

一般的にシミと言われる数㎜〜数㎝の色素斑を医学用語では「老人性色素斑」と言います。
一方、「肝斑」とは30~40歳代や更年期の女性に多く見られるシミのことです。ほお骨〜ほほ、鼻の下~口周りなどに左右対称に広範囲にできるのが特徴です。 妊娠や出産、ピルの服用、更年期などホルモンバランスが乱れたときには、プラスミン(メラノサイト刺激因子)という情報伝達物質が発生し、メラニン生成が促されることで肝斑が発現すると考えられています。肝斑は、強いストレスを受けたり紫外線を浴びたりすることで、さらに濃くなることがあります。
一般に肝斑の治療は、トラネキサム酸を1~2ヶ月を目安に内服することが多いですが、サンスター株式会社が発表した論文によると、0.1%リノール酸配合のジェル製剤を1日2回の塗布で6ヶ月使用したところ、肝斑に効果が認められたという臨床報告があります。

(参考)皮膚美白剤としてのリポソーム化リノール酸の有用性

アトピー性皮膚炎の方への安全性試験

アトピー性皮膚炎は、皮膚の炎症が長く続くことから色素沈着を生じやすく、美白剤の使用を希望する方が多い一方で、刺激やアレルギー反応が起こる心配もあります。
内 小保理医師らが発表した論文によると、20名を対象に1ヶ月間、リノール酸配合美白剤を使用する臨床試験が行われました。その結果、副作用として,額部・口唇の刺激感,一過性の紅斑,一過性の鱗屑,一過性の眼瞼浮腫,口角の色素沈着がみられたが,いずれも軽微であり、リノール酸配合美白剤は,経過観察は必要であるがアトピー性皮膚炎の方が使用する美白剤の選択肢となりうるとの臨床報告があります。

(参考)リノール酸配合美白剤のアトピー性皮膚炎患者を対象とした安全性の検討

よくある質問

・リノール酸Sに副作用はあるの?
肌に合わなかった場合、塗布した部分にかゆみ、刺激感、発疹、発赤が認められる場合があります。リノール酸S配合の化粧品を初めて使用する際は、必ずパッチテスト等で問題ないかを確認してから使用しましょう。

・リノール酸レチノールにも美白効果があるの?
リノール酸レチノールは、レチノールの安定性を高めることを目的として、高級脂肪酸であるリノール酸とエステル結合させてできた成分です。
肌に浸透した後、リノール酸レチノールは体内の酵素によってエステル部分で切り離されます。その結果、レチノールと遊離リノール酸のそれぞれの成分として、アンチエイジングと美白の両方の効果を発揮します。

こんな記事も読まれています

人気記事

新着記事

最新クリニック

Facebook

Instagram

このエラーメッセージは WordPress の管理者にだけ表示されます
Instagram フィードに問題があります。
Click to Hide Advanced Floating Content