【日本ケアメイク協会】
視覚障害を持つ方々の人生を輝かせたい。日本の「ブラインドメイク」から世界の「ブラインドメイク」に。

「ブラインドメイク」講師そして、日本ケアメイク協会理事長の鈴木加奈子さん。大学生の時に全盲となり、自身の経験から視覚障害をもつ全ての方々の人生を輝かせたい想いから、全世界にブラインドメイクを広げる活動をしている彼女にお話を伺いました。

全盲になって出逢った「ブラインドメイク」

――ブラインドメイクとの出会いを教えてください。

鈴木 出会いは4年前の2016年です。元々は全盲ではなく、大学を卒業する頃から全盲になりました。それで、やはりそれなりの年齢になってきたし、外出するには最低限の身だしなみとしてお化粧しないといけないと思ったものの、目が見えなくなって自力でお化粧することが難しかったため、お化粧が好きで美容に詳しい母に教えてもらいながらメイクをしていました。

ただ、そのメイクの技法は正眼の方がする技法で、例えばアイシャドウを引くのも左目から右目へとチップを使ってやっていたので、いつも同じようにやっているつもりでも、日によっては片目だけアイシャドウがとても濃くついてしまって目が腫れぼったくなり、「花粉症なの?」って言われることがありました。それから、一生懸命時間かけてお化粧しているのに、母から「え、今日お化粧しているの?」とか「全然お化粧っ気ないよ」って言われるなど、日によってのムラがだいぶありました。義務でメイクはしていたものの、決して自分のメイクに自信なんて持てず、そういうことを言われると、「ああ、やっぱりちゃんと出来てないんだ」と思ってしまい、テンションも上がらない、あまり人に顔を向けたくない、など気持ちがダウンしてしまうこともありました。そのなかで、NHKのテレビでブラインドメイクが紹介されました。私は直接観られなかったのですが、知り合いがその情報を教えてくれて、すぐに検索して、そこで初めて「ブラインドメイク」というものがあることを知りました。

メイクアップは素晴らしいパワーを持っている

――ブラインドメイクをするようになって気づいたことは何ですか?

鈴木 外出などの際、視覚障害者はどうしても誰かに道を尋ねたり、助けを求めたりする機会が多いので、自然なメイクをして明るい顔でいることで、周りの人も助けてあげやすくなる、声をかけようかなって思ってくれるようになる、という話しもありました。
実際にブラインドメイクをして出かけるようになると、電車のなかで隣の人と会話したり、声かけてくださったりすることが増えた実感があります。見た目は関係ないなどとよく言いますが、暗い顔で身だしなみがあまり整っていない人に声をかけるか、それともお化粧して明るい感じでいる人に声をかけるかといったら、やはり明るいイメージの人の方が声をかけやすいですよね。お互い気持ちもポジティブになります。

ブラインドメイクは感覚が大切

――ブラインドメイクは実際どのような技法なのでしょうか?

鈴木 自分の指を使って行う技法です。レッスン受けてしばらくは、どれくらい塗ったらいいかなどは見てもらうしかありません。しばらくは母に見てもらいながら、力のいれ具合や左右のバランスのクセを見てもらいながら修正し、繰り返し練習をしました。私は、アイシャドウとチークは昔から使っていて、チークは刷毛を使い、アイシャドウはチップを使っていたのですが、マスカラやビューラーなど、まつげの部分は見えないと出来ないだろうと思っていました。しかし、ブラインドメイクのホームページにビューラーやマスカラも出来ると書いてあったのを見て、これは習いたいと思ったんです。
レッスンを受けて1、2ヶ月毎日行ったところ、だんだん身についてきました。両手を使って行うため、慣れてくると、メイクアップの時間は15分から20分くらいで仕上げられるようになります。

ブラインドメイク講師が教えるブラインドメイクの基礎はスキンケアから

――講師としてどんなことを伝えているのですか?

鈴木 私は、みなさんの前でまず化粧を全部落として、素っぴんになるところから始めます。そこから化粧水をつけるところから、スキンケアの全部をみなさんに見ていただきます。ブラインドメイクは洗顔の仕方からお伝えします。視覚障害の場合、肌を触って色々感じていくのですが、アイシャドウは触ってもちゃんと色がついているのかわかりません。しかし肌が変わっていくのは、手で触ればわかります。それがとても楽しいのです。洗顔で肌が変わるということが、とても楽しいです。今までの適当な洗顔とは違って、ちゃんとしたやり方を教えてもらうことで、どんどん自分の肌がよくなっていくから、お化粧のノリも良くなります。

――ブラインドメイクの講師の方は、何人ぐらいいらっしゃるのですか。

鈴木 私が視覚障害者にブラインドメイクを教えるというわけではなく、あくまでもブラインドメイクを教えたいと思っている正眼の方に対して、指導や助言をする立場なので、まだそんなに数がいません。3、4人ぐらいです。それは技法だけでなく、視覚障害の人と一対一で向き合うお仕事なので、視覚障害者に対する接し方など視覚障害者理解のことも伝える必要があります。
今、正眼のブラインドメイクを教えることができる化粧訓練士さんは50人ぐらいです。視覚障害者の前でデモンストレーションをする機会よりは、主に正眼の方に見てもらって、ブラインドメイクってこういうもの、と伝える機会が多いです。まだまだ視覚障害者がメイクをすること自体が知られておらず、目が見えないのになんのためにメイクするの?と思っている人もいます。例えば視覚障害の人が、勇気を出して「私もメイクしたい」と知り合いに言ったときに、「見えないのにメイクなんかできないでしょ」とか、「あなたはそのままで綺麗よ」と言われれば、メイクをする意欲はあるのに、そこで諦めてしまいます。ですから、見えなくてもメイクをしたい気持ちはあるし、する意義もあるということを見える人たちに伝えています。

人の気づきうあきっかけを作れることが「やりがい」

――現在、奏者としてのお仕事、ブラインドメイク講師と、忙しい中でモチベーションを保てるやりがいなどはありますか。

鈴木 全てに共通しているのは、聞いてくださった方が、そのあとにとても喜んでくれたとか、元気になりましたとか、勇気もらいました、とかそういう言葉をかけてくれたり、聞いてくださった方の何か新しい気づきになったり、きっかけになることがやりがいです。 例えば、演奏活動も、2時間のプログラムがあったとしたら、みんな好みも違えば感性も違う。その2時間全てにおいて全員が良かったと思うのは滅多にないと思っています。でも、その中の一部分の曲のどこかのフレーズだったり、どれか1曲が心に残ったり、トーク内のどこかのメッセージが心に残ったりとか、一箇所でもそれぞれの人に何か残るものを届けることができたら大成功だといつも思っています。 だから、そういうことをみなさんがあとからフィードバックしてくれることが、やってよかった、また次もやろうって思える。それがやりがいです。

ブラインドメイクと盲導犬の共通点「人生が明るくなる」

――ブラインドメイクが鈴木様自身にどんな影響を与えましたか?

鈴木 まず、出掛けることや人と会うことが、とにかく楽しくなりました。どちらかというと、私はそんなにアクティブでもなく、盲導犬が来る前はほぼ引きこもり状態でした。実家に住んでいたときは、車じゃないと駅まで行けないような場所で、白杖だけで行くのは難しいようなところだったから、美容院に行くことすら両親に頼んでいたくらい一人での外出は避けていました。それが、まず盲導犬が来たことで、出掛けようという気持ちになれて、自力で外出できるようになりました。そのあと、ブラインドメイクを習いに名古屋の大石先生のところまで行っていました。盲導犬がいたから、勇気を出して初めて一人で新幹線に乗って、初めて一人で宿泊するという経験をして、ブラインドメイクに出会ったのです。そこからは本当に羽が生えたように色んなところに行くようになり、人との交流も広がったり、昔の自分では考えられないくらいアクティブになりました。

――盲導犬との生活で変わったことはなんですか?

鈴木 今一緒に生活をしている盲導犬は女の子で、「アリエル」といいます。ディズニーの人魚姫の名前からつけました。アリエルは、実は2頭目の盲導犬で1頭目は「ナンシー」という子でした。
盲導犬との生活は、もう十数年です。ブラインドメイクと盲導犬には共通しているところがあります。外を歩くとき、杖のときはどうしても足元ばっかり気にして、下向きがちで歩いていたのが、盲導犬と歩くと自然に顔が上がり、胸を張って歩くことができます。それはお化粧にも同じことが言えると思います。「今日化粧っ気ないよ」と言われたら、なるべく人と顔を合わせないように歩くのが、お化粧をしていると顔を上げて歩けるので、そこが共通していると思います。私の場合、ダブルで盲導犬とブラインドメイクがあるから、ずっと上を向いて歩けるということなのです。

ブラインドメイクをもっと身近にしていきたい

――日本ケアメイク協会の今の活動を教えてください。

鈴木 もともと日本ケアメイク協会は、ブラインドメイクだけではありませんでした。例えば皮膚のシミをなくすケアだったり、髪の毛がなくなってきたがん治療の方がウィッグによって気分がまた前向きになったり、お化粧が認知症の方にも有効だったりなど、化粧の有効性についてどんどん広がっていきました。そのため大石先生が日本ケアメイク協会だけではなくて、公益社団法人化粧療法協会を立ち上げられたのです。つまり、元々の日本ケアメイク協会が大きくなって公益社団法人を立ち上げたということです。これは公益のものなので、医療に密接した研究などもあり、ブラインドメイクはその中の一部になりました。そうなると、ブラインドメイクの事業は、大石先生だけでは手が回らなくなってきたため、私が理事長を引き継ぎ、日本ケアメイク協会をもう一度立ち上げ直しました。
もともとブラインドメイクは日本ケアメイク協会の主な活動でしたが、ブラインドメイクを通して視覚障害者の心のケアに繋がる活動まで全部請けおうことになりました。
日本ケアメイク協会では、ブラインドメイクの活動をしっかりと根付いたものにし、広げていくために視覚障害の方々へ情報提供をしたり、認定化粧訓練士を育成したりと大石会長の意思を受け継いだ協会として、ブラインドメイクの活動をしています。

大石理事長の時代から、毎年10月の10日をブラインドメイクの日として、海外での講演などを日本ケアメイク協会主催というかたちで行っており、今年初めて新日本ケアメイク協会で主催しました。昨年と一昨年は直接現地の方に見ていただきながら実演したり、現地の視覚障害者にブラインドメイクを体験してもらったりしてきましたが、今年はこういう状況なので、海外には出向けないこともあり、10月10日にウェブで開催しました。そこではブラインドメイクの体験談や実演を行いました。
また昨年はフランスで開催されたMakeUp in Parisにお呼びいただき参加してきました。とても大きなイベントで、ルーブル美術館の地下で行われました。そこでは、いろんな化粧品のメーカーがブースを出して、最新のお化粧を発表してバイヤーと交渉するイベントだったのですが、おかげさまでたくさん話しかけていただきました。目が見えない人もメイクをするという事実を、化粧品会社の方に知ってもらうことは、化粧品を開発するなかでそういう人も使う、ということを意識して作ってもらえることが、とても意味のあることだと思いました。例えばマスカラは、一般的には丸い形が多く、倒れて転がって床に落ちたら自分で探せなくなります。そういうちょっとしたことも、化粧品会社の方たちが気づき、ユニバーサルデザインで作ってくれたら、という希望もあります。中国の視覚障害の方々の話を聞いても、皆さんメイクに興味を持っていて、自分なりに友達に教えてもらってやってるけど、全然自信が持てない。でももっとメイクをして社会参加をしたいという意気込みの言葉を皆さん言っていたのを聞いて、日本と一緒だなって思いました。
また、今まで見えていたけれども、何かしらの原因で視力を失ってしまう方々のニーズもたくさんあります。自分のお化粧している顔・していない顔を知っている方の場合、目が見えなくなってお化粧しないで外を歩くということに、とても抵抗があると思います。目が途中で見えなくなる方は、まず杖を持つことに抵抗があり、引きこもりになりやすい。仮に杖を持てたとしても、お化粧していない顔を、人に見せたくないと思っている方にとっては、そこも一つのバリアになってしまう。だから、杖の訓練を受ける前に、お化粧して自信を持つことで、杖で出かけたくなる、そう思えることも十分考えられます。そこで現在、眼科のなかにロービジョン外来というものができました。これは、途中で見えなくなって、杖の訓練をはじめ色んな訓練が必要な人が行くところです。点字や歩行訓練などを行うのですが、杖の訓練は大変なものなので、その中にブラインドメイクを取り入れることで、毎月訓練にしにくるのが楽しみになり、モチベーションが上がるのではないかと考えています。メイクをするのが楽しい、外に出るのが楽しい、そう思ってもらうことを目指していたところ、この度、北海道の国立の医大がロービジョン外来でブラインドメイクを取り入れることになりました。今はブラインドメイクを習うとなると化粧訓練士と1対1で習うので、どうしてもレッスン料が高額になってしまいます。そのため、習いたいけど習えないという視覚障害者にとっては、ロービジョン外来だったら無料で受けられるため、ハードルが下がると思います。こういった施設を増やす活動も前向きに取り組んでいきたいです。

――理事長としての展望についてお聞かせください。

鈴木 当事者が理事長になったということもあり、視覚障害の人たちにまずメイクをする楽しさを実体験として伝えていき、私もメイクしたいと思ってくれる人を増やしていきたいです。よくあるのが、就職の面接を受けるからお化粧ができるようになりたいという方も多いので、社会参加のきっかけになってくれたら嬉しいです。それと同時に、そういう人を増やすためには化粧訓練士が必要になってくるため、一般の方たちにもメイクをする意義を伝えていき、化粧訓練士になりたいと思ってくれる人を増やしていきたいです。今まで習いたいけどどうやって習ったらいいか、誰に連絡していいかわからないとか、ハードルが高くて習えないという人も多いと思うので、誰もがお化粧したいと思ったらここに問い合わせればいい、そういう協会にしていきたいです。まだまだこれからですが、今回のウェブプロジェクトをやったことで、多くの当事者の人にも見ていただき、やってみたいという声も聞きました。そういう形で一歩ずつ広げていきたいです。

――トロンボーンの奏者として、そして日本ケアメイク協会理事長として、そしてブラインドメイクの講師としての鈴木様個人としての今後の展望をお聞かせください。

鈴木 私は人との繋がりが一番大事だと思うので、トロンボーンを通しての音楽仲間との繋がり、メイクを通してのブラインドメイクの人たちとの繋がりなど、その繋がりの中で色んな体験や経験をさせてもらえていると感じています。理事長をやっていることも、全く私の人生の計画の中に予想してなかったことでも、こうして導かれてやらせてもらっているので、これからの人生も、予想していることとは違うことがきっと起こってくるのでしょうし、その一つひとつを経験として楽しんでいきたいです。
それから、今は行けないものの、とにかく色んな国も行ってみたいです。以前からトロンボーンの演奏で世界中を周りたいと言ってきたのですが、それが今度はメイクを伝えたいということもプラスされ、色んなことにこれからもチャレンジができそうなので、人との縁を大切にしながら、どんどん色んな経験を積み重ねていきたいです。女性に生まれたからには、いつまでも輝いていたいですよね。それは、何か楽しいことをしたり、何かにチャレンジしているからこそ輝くと思うので、常に何かにチャレンジして、楽しいこと、ワクワクすることを続けていきたいと思います。

日本ケアメイク協会理事長 
鈴木 加奈子
(すずき かなこ)

プロフィール

プロ・トロンボーンソリストとして活躍。
オリジナル曲を多数制作し、2枚のソロアルバムをリリース。
生まれつき視覚にハンディがあり、盲導犬と共に積極的に活動中。

昭和音楽大学(弦・管・打楽器部門)を首席で卒業。
ドキュメンタリー番組や映画、CMなどにも出演。
近年では、各地で演奏活動を展開している傍ら、ブラインドメイク講師としても活躍。
2017年に発売された『ブラインドメイク物語』の中では、自身の人生についても執筆。
一般社団法人日本ケアメイク協会理事長。

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