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【薬剤師監修】漢方薬で痩せる?漢方ダイエットの効果や副作用は?

“コロナ太り”の影響から、近年ダイエット目的で漢方薬を服用される方が増えています。
いわゆる痩せ薬のGLP-1製剤(サクセンダなど)と比較し、安全で副作用が少ないイメージがあるかもしれませんが、漢方薬はご自身の体質に合ったものを選ばないと、効果が出ないどころか体に悪影響を及ぼす場合もあります

この記事では、ダイエット効果が期待できる漢方薬の正しい選び方を解説します。

教えてくれたのは

薬剤師 藤原 智沙恵 さん

研修認定薬剤師、1児の母。
メーカーで化粧品・医薬部外品の研究開発職に従事し、スキンケア製品や衛生用品の開発に携わる。
薬事申請や2度の特許出願なども経験した後に、調剤薬局の薬剤師へと転職。
薬局で様々な皮膚疾患をもつ患者さんの服薬指導にあたり、さらに多くの人に正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、医療・美容分野を中心に執筆活動を始める。
薬剤師やメーカー勤務時代に取得した化粧品成分上級スペシャリストの資格を活かし、化粧品成分の安全性や美容サプリメントの正しい服用方法などを伝える記事の執筆・監修に積極的に取り組んでいる。

漢方って何?

まずは漢方薬や漢方独自の考え方について知ることで、ご自身の体質が理解でき、今の体の状態に合う漢方薬が選びやすくなります。

漢方とは

漢方は、中国を発祥とする日本の伝統医学です。
病気の症状をピンポイントで治す西洋医学とは違い、漢方医学では患者さん各々の体質や心身の状態に合わせて、ヒトが本来持っている自然治癒力を利用して治すという考え方をします。そのため、漢方には患者さんの体質を見分ける独自の“ものさし”があります。

漢方独自のものさしとは

ものさし①:「気・血・水(き・けつ・すい)」

心身の不調の原因を知る目安となります。漢方では「気・血・水」の3つの要素が体内をうまく巡ることで健康が維持されると考えられています。

・気
心と体を動かすエネルギーのことで自律神経の働きに近いとされます。
気が不足すると無気力や疲労感、食欲不振につながり、気の巡りが悪くなると息苦しさや喉の詰まり、のぼせ、不安感などの症状をきたします。

・血
血液の流れや老廃物を回収する働きのことです。
血の不調は貧血・生理不順、便秘、肩こりなどの他、肌のターンオーバーも乱れるため肌荒れや皮膚の乾燥、色素沈着、脱毛などにもつながります。

・水
リンパ液、消化液、唾液、汗など、血液以外の体液をさします。
水の不調は、むくみ、冷え、めまい、排尿障害などを引き起こす他、過剰な水分はその人の一番弱い所に溜まるため、関節痛や鼻炎の症状をきたす場合もあります。

ものさし②:「証(しょう)」

気・血・水の3要素の状態から、個々の体質やかかりやすい病気の傾向を知る目安として、大きく「実証」と「虚証」に分けられます。

・実証
「3要素の巡りが悪く、余分なものが体から出ていくことができない」病態。
見た目は筋肉質でガッチリ、血色がよく肌にツヤがあるタイプです。
胃腸が強く食欲旺盛で元気ですが、感情の起伏が激しくて怒りっぽい人が多いです。便秘、のぼせ、出血、イライラなどの訴えがあります。

・虚証
「体に必要な3要素が不足している」病態。 見た目は細くて華奢(きゃしゃ)、顔色が悪く肌が荒れやすいタイプです。
胃腸が弱くて下痢しやすく、抵抗力が弱い人が多いです。冷え性、疲労感、めまいなどの他、不安で落ち込みやすい、集中力がないなどの訴えがあります。

漢方で痩せる?

漢方では、肥満は気・血・水の巡りが悪い状態ととらえます。
漢方薬は痩せるためのお薬ではありませんが、体質に合った漢方薬を飲むことで自然治癒力が高まって代謝が良くなり、排泄も滞りなく進むため、結果として痩せられる場合があります

肥満の原因には以下の4つが考えられます。
① 過食
② 運動不足
③ 消化や代謝能力の低下
④ ストレスや更年期によるホルモンバランスの乱れ


①や②の場合は、漢方薬だけで痩せることは不可能で、運動や食生活を改善する必要があります。ウォーキングや水泳などの有酸素運動を取り入れたり、夜食や間食を控えて朝食中心の栄養バランスの整った食事を摂るようにしたりするなど、生活習慣を改善したうえで漢方を取り入れるようにしましょう。

ダイエット効果が期待できる漢方

ここでは、ご自身の体質に合えばダイエット効果が期待できる漢方をご紹介します。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

実証タイプの「脂肪太り」による肥満で、太鼓腹で食欲旺盛、便秘、ほてり、赤い吹き出物ができる方におすすめの漢方です。

肥満につながるようなカロリー(熱量)の高い食事を続けていると、胃に熱がたまりやすくなります。こもった熱は消化機能を低下させ、さらに熱が腸におよんで便を乾燥させ便秘や体重増加の原因になります。

防風通聖散はいわゆる“デトックス”作用があり、発汗を促して腸の熱を下げるとともに、脂肪の分解や燃焼を促進して脂質を便と一緒に排出します。
実際に、食事療法・運動療法と合わせて防風通聖散を24週間服用することで、内臓脂肪量や胴囲(ウエスト)を有意に減少させることが研究で報告されています*¹)。

【服用の注意事項】
配合生薬の“大黄”や“芒硝”は下剤として使われる成分で、もともと下痢しやすい体質の方が服用すると症状が悪化してしまいます。さらに“芒硝”は天然の含水硫酸ナトリウムであり、治療上で食塩制限をされている方は注意が必要です。

また“麻黄”には、交感神経を刺激する作用があり、不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮などを引き起こす可能性があります。一部の気管支拡張剤やパーキンソン治療薬、甲状腺薬などには麻黄と似た作用をもつお薬があるため、注意しましょう。

頻度はまれですが、重大な副作用で、肝障害や間質性肺炎が報告されているため気になる症状がある場合はすぐに医療機関を受診しましょう。

【服用が合わない人】
・虚証タイプで胃腸が弱い人:下痢や軟便の症状が悪化します。
・冷え性の人:服用を続けると体がさらに冷えやすくなります。
・妊娠・授乳中の人:大黄による子宮収縮作用や骨盤内臓器の充血作用で流早産の原因になる可能性があります。また授乳中も大黄が母乳に移行する可能性があります。 ・多汗症の人、不眠傾向の人、高血圧症、心臓病、腎臓病、甲状腺機能障害の診断を受けた人などは服用に注意が必要です。服用前に医師や薬剤師に相談しましょう。

防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)

虚証タイプの「水太り」による肥満で、下半身のむくみ、関節痛、倦怠感、多汗の割に尿量が少ない人におすすめの漢方です。

水太りは気の不足による血・水の滞りが原因で起こるため、無理な運動や食事制限は余計に気を消耗し状態を悪化させてしまいます。

防己黄耆湯は、胃腸の消化吸収を助けて気を補いながら、皮膚や消化管で停滞している水分を尿として流すことにより、水分代謝を改善する作用があります。
また、配合生薬の“黄耆”にはイソフラボンの1種である「ホルモノネチン」という成分が含まれており、高脂血症の改善や抗肥満効果があることが報告されています*²)。

【服用の注意事項】
配合生薬の“甘草”の大量服用により、むくみや血圧上昇、低カリウム血症を引き起こす「偽アルドステロン症」になる場合があります。複数の漢方を長期に併用する際には注意が必要です。

【服用が合わない人】
実証タイプの肥満の人

大柴胡湯(だいさいことう)

実証タイプの便秘がちな肥満の方で、ストレスが溜まると食欲が異常に高まる人、高血圧、頭痛、肩こりがある人におすすめの漢方です。

大柴胡湯には、肝臓での脂質代謝を高めて余分な脂質の吸収を抑える作用があります。
また、配合生薬の“柴胡”には顕著な精神安定作用があり、気分を落ち着けてストレスなどによる過食を抑える効果が期待できます*³)。

【服用の注意事項】
“大黄”含有製剤の重複に注意しましょう。

【服用が合わない人】
・虚証タイプで胃腸が弱い人
・冷え性の人
・妊娠・授乳中の人

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

実証タイプの肥満の方で、ホルモンバランスが崩れて冷えのぼせ(ホットフラッシュ)がある人、血行不良で便秘がちな人におすすめの漢方です。

女性は更年期になり女性ホルモン(エストロゲン)が減少すると、脂肪代謝を促す作用が低下するので体重が増えやすくなります。
また、血の巡りが滞ると、生理不順や生理痛、生理時や産後のイライラのほか、便秘や頭痛・肩こり・のぼせにもつながります。

桃核承気湯は、血の巡りを良くして熱を分散させ、これらの症状を改善します。

【服用の注意事項】
“大黄”や“甘草”含有製剤の重複に注意しましょう。
塩類下剤の“芒硝”を含むため、食塩制限を行っている人は医師・薬剤師に相談しましょう。

【服用が合わない人】
・虚証タイプで胃腸が弱く、下痢しやすい人
・冷え性の人
・妊娠・授乳中の人

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

虚証タイプでむくみや冷え、貧血・生理不順が気になる方におすすめの漢方です。

当帰芍薬散には、血を補い水の巡りを良くすることで代謝を整え、全身に栄養を行き渡らせて、むくみを改善したり体を温めたりする効果があります。余分な水分が体から抜けることで、体重減少や疲労倦怠感の改善が期待できます。

月経トラブルをはじめとする女性特有の様々な症状を改善してくれるため“女性の聖薬”と呼ばれる当帰芍薬散ですが、自律神経を整える働きもあるため男性に使用される場合もあります

【服用の注意事項】
“当帰”や“川芎”などのセリ科の植物が配合されています。セロリの香りや味が苦手な方は、飲みづらく感じてしまう可能性があります。

【服用が合わない人】
実証タイプの肥満の人

漢方ダイエットは保険適用?

漢方ダイエットは基本的には保険適用されません
しかし一定の基準をみたして「肥満症」と診断される場合は、保険適用になる場合があります。

肥満と肥満症の違い

実は、肥満と「肥満症」は異なります
まず、ご自身の身長・体重から、肥満度の国際的指標であるBMI(Body Mass Index)数値を計算してみましょう。

【BMIの計算方法】
BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))

日本肥満学会により、肥満は「BMI 25以上、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」と定義されています。

肥満症と診断される基準*⁴

肥満の中でも、以下の基準をみたした人だけが「肥満症」と診断されます。
・BMI35以上の高度肥満に該当する人
・BMI25以上で肥満に関連する下記疾患を有する人
糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症、冠動脈疾患、脳梗塞、脂肪肝、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症、 肥満関連腎臓病
・BMI25以上で内臓脂肪面積が 100 cm2 以上である人


肥満症治療では、継続的に食事療法・運動療法・行動療法などを行いながら、並行して漢方薬を服用することになります。

また令和4年時点で、肥満症に対して保険適用が認められている漢方製剤は、防風通聖散・防已黄耆湯・大柴胡湯の3つです。

市販の漢方薬でも効果はある?

配合されている生薬の成分自体は、薬局・ドラッグストアで購入できる「市販薬」も医療機関で処方される「処方薬」も基本的には同じです。
しかし、一般に市販薬は、処方薬の50~80%程度に成分量が抑えられているものが多いです。理由は不特定多数の人が飲んでも副作用が起こりにくくするためですが、それにより効き目もやや落ちてしまいます

漢方がご自身に合っていることを確認した上で、より高い効果を期待する場合は、「満量処方」と記載されている、日本薬局方で定められた処方通りの分量(処方の1日最大配合量)で作られた漢方薬を選ぶと良いです。
(※漢方の種類によっては、満量処方の商品が市販にないものもあります)

逆に、市販薬を1ヶ月程度続けてみても効果が現れない場合は、その漢方薬が合っていないなど、他の原因が考えられるため、一度医療機関の受診をおすすめします。

自分の体質に合わせて正しく選ぼう!

漢方薬はダイエット薬ではありません
しかし、なかなかダイエットが成功せずに悩んでいる人は、食生活の改善や適度な運動と一緒に漢方薬を取り入れることで、代謝が改善され、痩せやすく太りにくい体を手に入れることができるかもしれません。

最近、韓国の漢方ダイエットがSNSでも話題になっていますが、成分が不明なものや、体質に合っていないものを選んでしまうと危険な場合があります

ご自身の体質に合った漢方薬を正しく選び、不安な場合は医療機関を受診して相談するようにしましょう。

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