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イデベノンって何?強力な抗酸化作用やその効果とは?

強力な抗酸化作用をもつことから、近年注目されている「イデベノン」。
紫外線やストレスによる刺激で発生する活性酸素を除去して、シワや皮膚のたるみを改善する効果が期待されています。

今回は、イデベノンについて、他の抗酸化成分との比較やアンチエイジング効果と共に詳しく解説します。

今回、イデベノンについて教えてくれたのは

薬剤師 藤原 智沙恵 さん

研修認定薬剤師、1児の母。
メーカーで化粧品・医薬部外品の研究開発職に従事し、スキンケア製品や衛生用品の開発に携わる。
薬事申請や2度の特許出願なども経験した後に、調剤薬局の薬剤師へと転職。
薬局で様々な皮膚疾患をもつ患者さんの服薬指導にあたり、さらに多くの人に正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、医療・美容分野を中心に執筆活動を始める。
薬剤師やメーカー勤務時代に取得した化粧品成分上級スペシャリストの資格を活かし、化粧品成分の安全性や美容サプリメントの正しい服用方法などを伝える記事の執筆・監修に積極的に取り組んでいる。

イデベノンとは

抗酸化作用をもつコエンザイムQ10の合成類似物質である「イデベノン」。
ここでは、イデベノンの構造とその特徴について詳しく解説します。

そもそもコエンザイムQ10って何?

コエンザイム(coenzyme)とは、日本語で“補酵素”という意味です。
Q10の10とは、コエンザイムQの構造式の中にイソプレノイド鎖が10回繰り返されていることにちなんで付けられています。生物が体内で作るコエンザイムQは基本的に1種類で、ヒトの場合は、コエンザイムQはすべてQ10になります*¹。

コエンザイムQ10は細胞のミトコンドリア内に存在し、生きていくために必要なエネルギーを生み出しています。さらには体内でビタミンEと共に活性酸素を除去する重要な役割も果たし、からだ全体の老化防止や、脳血管障害・心不全などの成人病の予防に役立つとされています。

コエンザイムQ10から生まれた「イデベノン」

「イデベノン」は、日本の武田薬品工業がアルツハイマー型認知症などの治療薬として開発し、かつて医療用医薬品として承認を受けていた成分です。(1998年に薬効再評価を受け、日本での医薬品承認は取り消しになっています。)

武田薬品はコエンザイムQの抗酸化作用に着目し、6位の側鎖を変換して合成することで、コエンザイムQ10よりも高い抗酸化作用をもつイデベノンを開発しました*²。
すなわち、CoQ10は6位の側鎖にイソプレノイドが10個連なる長い側鎖(炭素原子数50)を持つのに対し、イデベノンはヒドロキシデシル側鎖(炭素原子数10)を持ち、コエンザイムQ10 の約40%に低分子化されています*³。

開発当初から、イデベノンの抗酸化作用による神経や血管の保護効果が着目されており、現在でも神経筋疾患に対する有効性が期待されて海外では研究が続けられています。そして近年では、イデベノンのアンチエイジング効果にも注目が集まり、美容大国の韓国やイタリアなどを中心にスキンケア製品にも配合されるようになりました。

イデベノンの抗酸化作用と美肌効果について

ここではイデベノンの抗酸化作用と美肌効果について解説します。

抗酸化作用とは

活性酸素は、呼吸によって取り入れた酸素が細胞のミトコンドリア内で代謝され、より反応性の高い化合物に変化したものです。体内に取り入れた酸素のおよそ2%が活性酸素になると言われ、細菌やウイルスを除去して免疫機能を維持する大切な役割を果たしています。

一方で、紫外線・ストレス・喫煙・過度の飲酒などにより、体内で活性酸素が増え過ぎてしまうと、正常な細胞まで酸化させてからだにダメージを与えてしまいます。
肌の中で増え過ぎた活性酸素は、肌の線維芽細胞やメラノサイトを攻撃し、シワ・たるみ・シミの発生の原因になります。ヒトの体内には、コエンザイムQ10 などの抗酸化作用をもつ酵素や物質が備わっていますが、20代をピークとして加齢と共に体内で合成される量が減少するため、食事や化粧品・サプリメントなどで抗酸化物質を補うことが必要です。

イデベノンの美肌効果

イデベノンを肌に塗布することで、以下のような効果が期待できます。

● 皮膚のシワやたるみを改善・予防する効果
活性酸素で皮膚の線維芽細胞がダメージを受けると、コラーゲンやエラスチンの生成が阻害され、肌のシワやたるみを発生させます。イデベノンは活性酸素を除去することで、肌の弾力やハリのもとであるコラーゲンやエラスチンを保護し、シワやたるみを改善・予防する効果があります。気になる頬のたるみ毛穴の引き締めにも効果が期待できるでしょう。

● シミやそばかすを防ぐ効果
活性酸素でメラノサイトが刺激されることにより、メラニンの生成が活性化されシミができます。イデベノンは、活性酸素を除去することで、肌の中で大量のメラニン色素がつくりだされるのをおさえ、シミやそばかすができるのを予防する効果があります。

● 日焼け細胞(sunburn cell)の生成を抑制する効果
日焼け細胞とは、紫外線が当たって損傷を受けた表皮細胞が、細胞死した状態を表します。回復不能になった角質細胞の除去を目的におこる現象だと言われています*⁴が、イデベノンはその強力な抗酸化作用により、日焼け細胞の生成を防ぐ効果があると報告されています*⁵。角質細胞を守ることで、バリア機能の低下を防ぎ、乾燥や肌トラブルの発生を抑えます。

イデベノンを用いたスキンケア

● イデバエ注射
イデバエ注射はイタリアで開発された薬剤です。イデベノンと共に、神経に働いて筋肉を収縮させる作用を持つDMAE(ジメチルエタノールアミン)が配合されています。

日本の美容皮膚科でも利用できるメソセラピー(脂肪溶解注射)治療の一つで、アンチエイジング効果とリフトアップ効果を目的に施術されます。
1回の注射で3ヶ月効果が持続すると言われており、イデベノンの作用で、加齢による小じわやくすみの改善、紫外線からの肌の保護・シミの予防効果が期待できます。

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● 化粧品
日本でイデベノンを配合した化粧品はまだあまり多くありませんが、韓国などではイデベノン配合化粧品が増えてきているようです。
イデベノンは非常に酸化されやすく、また水に溶けにくい性質をもつため、化粧品に配合するためには工夫が必要です。
例えば、使用する直前まで2層式に分離して成分を安定化させたり、イデベノンをリポソームに内包して製品に配合しやすくしたりするなど、各社が工夫を凝らして開発しています。

他の抗酸化成分との比較

ここでは代表的な抗酸化成分のご紹介と、それらと比較した時のイデベノンの抗酸化力についてご説明します。

代表的な抗酸化成分

抗酸化成分は、酸化されやすい成分のことを言い、活性酸素に優先的に酸化されることによって、私たちのからだが酸化されるのを防いでくれます。
代表的な抗酸化成分には、ビタミンC・E、コエンザイムQ、フラボノイド系ポリフェノール、非フラボノイド系ポリフェノール、カロテノイド、硫黄化合物などがあげられます。

【具体的な抗酸化成分の例】
・ビタミンC
野菜や果物に多く含まれるビタミンで、抗酸化力が非常に強いことが知られています。体内で合成することはできないため、食事やサプリメント、化粧品などから補う必要があります。

・ビタミンE
植物性油脂やナッツ類に多く含まれるビタミンで、細胞膜のリン脂質が酸化してできる過酸化脂質の生成を抑えます。抗酸化力のある成分と共に摂取すると相乗効果が期待できます。

・コエンザイムQ
体内で合成されるほかに、魚類や肉類に多く含まれます。ビタミンと同様の働きをするためビタミン様物質とも呼ばれ、ビタミンの働きを助けて強い抗酸化力を示します。

・カイネチン(キネチン)
スキンケアに最も多く使用されているフラボノイドの一つ。体内でできた活性酸素を無毒化する作用があります。天然に存在する、植物の細胞分裂を促進する物質です。

・dl-α-リポ酸
レバーや野菜に多く含まれます。α-リポ酸はチオクト酸ともよばれ、抗酸化作用を持つ硫黄を含んだ脂肪酸の一種です。新陳代謝を高めて体脂肪の増加を防ぐ働きもあります。

イデベノンの驚異的な抗酸化

2005年にJournal of Cosmetic Dermatology誌で発表された研究で、イデベノンの抗酸化力を、コエンザイムQ10 、dl-α-トコフェロール(ビタミンE)、L-アスコルビン酸(ビタミンC)、カイネチン、dl-α-リポ酸と比較した実験があります。

酸化ストレス保護能を表し、抗酸化作用の強さを相対的に評価できる“EPF(environmental protection factor)指数”の点数を比較した結果、
イデベノン:95点、ビタミンE:80点、カイネチン:68点、コエンザイムQ10:55点、ビタミンC:52点、dl-α-リポ酸:41点

という結果となり、イデベノンが最も高いEPFスコアをもつことが確認されました*⁵。

イデベノンの臨床研究

ここでは、2005年に Journal of Cosmetic Dermatology誌で発表された、イデベノンを用いた臨床研究をご紹介します。

【臨床研究】
紫外線でダメージを受けた肌を有する30~65歳の女性41名に、0.5または1.0%のイデベノンを6週間塗布しました。
イデベノン0.5%・1%の濃度は、過去に行われた研究で、イデベノン0.5%塗布により日焼け細胞が38%減少、1.0%濃度ではさらに44%減少という報告に基づいて設定されました。

6週間塗布した結果、イデベノンを1.0%塗布したグループは、肌荒れ・乾燥が26%減少、肌のうるおいが37%増加、小じわが29%減少、光老化肌の総合評価が33%改善されました。また、イデベノンを0.5%塗布したグループは、肌荒れ・乾燥が23%減少、肌のうるおいが37%増加、小じわが27%減少、光老化肌の総合評価が30%改善されたことが分かりました。
どちらのグループも、肌の乾燥やシワ改善と共に、まぶたのたるみや色素異常(シミ)の改善が確認されたことが報告されています*⁶。

よくあるQ&A

Q.イデベノンに副作用はあるの?
イデベノンを経口服用した際の副作用は、頻度は少ないですが吐き気・胃痛・下痢・頻脈・感染症などが報告されています。 一方、皮膚に塗布した際は、概ね安全だとは言われていますが、まだ臨床データが少ないというのが現状です。多くの成分と同様に、肌に合わなかった場合、塗布した部分にかゆみ、刺激感、発疹、発赤が認められる可能性があるため、初めて使用する際は、必ずパッチテスト等で問題ないかを確認してから使用しましょう。

Q.イデベノンは妊娠・授乳中に使用できる?
妊娠・授乳中の使用による臨床データが少ないため、安全のため避けた方が良いでしょう。

Q.イデベノンを塗布後に日光に当たっても良い?
他の抗酸化物質と同様に、イデベノンは紫外線の影響で効果が減弱します。イデベノンを塗布してから外出する場合は、必ず日焼け止めを塗るようにしましょう。

Q.相性の悪い成分はある?
イデベノンと併用できない成分についての報告はありません。
一方で、イデベノンは非常に酸化されやすく安定性が悪いこと、脂溶性が高く水溶性基剤に溶けにくい性質があります。
そのため製品開発の際には、リポソーム・シクロデキストリン・脂質ナノ粒子などに内包させたり、2層式に分離させたりといった製剤上の工夫がされていることから、製品の使用上の注意はよく読んでから使うようにしましょう。

イデベノンでアンチエイジング対策を

イデベノンは高い抗酸化力をもつ成分であり、紫外線やストレスによって体内で発生する過剰な活性酸素を除去してくれます。
その結果、シワやたるみを改善し、シミの生成を防いで透明感のある肌へと導いてくれる効果が期待できます。

体内で生成される抗酸化物質の量は、20代をピークにして加齢と共に減っていくため、アンチエイジング対策のためにも積極的に抗酸化成分を取り入れることが重要です。
そして、現在も研究が進められているイデベノンは、今後さらなる進化を遂げるかもしれない注目の美容成分と言えるでしょう。

【参考文献】
1)川向誠(2011)コエンザイムQ10 生産微生物の開発, 生物工学第89巻第6号
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/8906/8906_tokushu_2-4.pdf
2今田伊助,井上正康(2013)CoQおよび関連医薬品の研究開発小史と今後の問題,薬史学雑誌 48(2)160-165
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjhp/48/2/48_160/_pdf
3)厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/03/h0307-3.html
4)日本化粧品技術者会 サンバーンセル [sunburn cell]
https://www.sccj-ifscc.com/library/glossary_detail/693
5)D H McDaniel, et al.(2005)Idebenone: a new antioxidant - Part I. Relative assessment of oxidative stress protection capacity compared to commonly known antioxidants
Journal of Cosmetic Dermatology. Jan;4(1):10-7
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17134415/
6)D H McDaniel, et al. (2005)Clinical efficacy assessment in photodamaged skin of 0.5% and 1.0% idebenone. Journal of Cosmetic Dermatology, 4, 167–173
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17129261/

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